Crazy for you  ~引きこもり姫と肉食シェフ~

「なあんだ、やっぱり狙ってたんだ」
「でなきゃここまであからさまに会わないっての。一目惚れだな、いい女だろ?」
「はい、可愛い子ですね、芸能人の誰かに似てると思うんですけど、誰ですっけ?」
「芸能人? さあ……でかいくくりで見たらってヤツ?」
「並べてみたら似てないってヤツかもですけど。なーんかいつも気になって。でもジロジロ見るのも悪いから」
「本人より、俺が気分を害するな」
「オーナーの恋人に手を出す気ないですよっ! でも俺の方に興味持っちゃったら諦めてくださいね!」
「お、言ったな。生意気な」
「だって、可愛いですよー。俺より年上っすよね? でも膝乗っけて、いい子いい子って撫でまわしたい気分になります」
「はは、それ判る」

上目遣いに見る仕草の所為だろうか、どこか小動物のような印象を受けるからかもしれない。そのウェイターは莉子より二歳年下の23歳だった。その男でもそんな気分になるのかと、尊は変に納得する、自分の征服欲が強いわけではないのだと。

「え、そう思うなら、もう力づくで、どん! がん! ばーん! と行ったらいいじゃないですか!」

男は訳の判らないジェスチャーを付けて言った、どうやら首根っこでもつかまえて押し倒せ、とでも言いたいらしい。

「そんな事できないから、時間を掛けてじわじわ落としてるんじゃないか」
「へえ、オーナー、見かけによらず人がよか……」

言ったウェイターを、尊は自身の両腕に閉じ込めた、背後にあるグラスなどが並ぶ棚を掴み、壁ドンならぬ『棚ドン』で、自分よりも10センチ以上低い男を見下ろして威嚇する。

「へ、オーナ……」
「俺だってあんな非力そうな女、とっとと捕まえて縄かけて滅茶苦茶にしてやりてえって毎日思ってんの。そうやって言う事聞かすのなんか簡単なんだよ。でもな、どう見たって男の経験もなさそうな女に強引に行ったら余程の変人か快楽主義者じゃなけりゃ嫌われるだけだろう? だからまず堀から埋めてにじり寄ってんの。人の苦労も知らないで茶化すんじゃねえよ」
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