Crazy for you  ~引きこもり姫と肉食シェフ~
「す、すみません……」

男は尊の迫力に、素直に謝っていた。

「いや、まあ、男性経験なさそうは判りますけど……単に、モテるオーナーなら、女なんかイチコロなんじゃないのかって思っただけで……」
「まあな」

尊は否定もせずに、にやりと強気な笑みを浮かべた。

「現に今すぐ縄かけても、結果うまく行くとは思うけど」
「縄かけるのはどうかと思いますよ?」
「泣かせるのは趣味じゃないんだよな。強気でいくのはもうちょい後だ」
「でも、さっきの彼女見たって、オーナーのひと押しで簡単に好き好き言い出しそうですけど?」
「それはそうだと思うけど」

尊は更に笑みを深める。

「彼女の方から身も心も差し出せさせたい。俺が彼女を惚れさせたんじゃない、彼女自らが俺に惚れたんだとね」
「はあ……なんかよく判りませんが……」

男は視界一杯の美丈夫の自信たっぷりの演説に、呆れた溜息を吐いた。

「オーナーが、滅茶苦茶意地が悪いって事は、よく判りました」
「そんな事ねえよ。俺なりの彼女の攻略法」

尊は今度は優しい笑みを浮かべて両手を挙げた、先程までとは打って変わった、いつも客に向けるような爽やかスマイルを見て、ウェイターは心底、このオーナーの怖さを思い知った気がした。


***

翌日の十時五十五分、莉子は家を出た。 向かうは上階にある尊の家である。既にお腹は空腹を知らせている、いつもなら食べ始めるであろう時間にご飯を作り始めると言うのだから、少々辛抱が要りそうだ。

服はどうやら尊がパンツルックの方が好みだと判って、サブリナパンツにしてみた。そして化粧は覚悟を決めて口紅すらしていない。 一番最初は本当のすっぴんだったのだ、尊にそれを見られているのなら、もういいと思った。

尊の部屋の前に立つ。 呼び鈴を押すだけだ、なのに腕はぴくりとも動かなかった。

(うう、緊張する……)

そもそも人見知りな莉子が、初めて単身で男の家を訪ねるのだ、余計な緊張を呼び起こしていた。

(でも、約束してるし……このままバックれるわけには……)

諦めて、震える指で呼び鈴を押した。 軽快な電子音が響く、莉子の部屋もそうだが5回鳴るのが1ターンだ。それが終わったのに反応がない。

(え? いない? そんな馬鹿な)
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