Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
尊は覚えている、香子が言っていた、莉子は作りたくて仕方ないのだと。
「うーん、当面はそんな気持ちにはならなそうだけど……そうなったら、尊には聞かせてあげる」
「お、特権だな」
ヒット曲を連発していたクリエイターが、たった一人の男の為に作ると言うのだ。
「そんな事ないよ」
莉子は笑いながら、鍋から小さな皿に白濁したスープを注いだ。
「ね、味見してみて」
尊は持ってきた弁当を脇に置いて、皿を手にする。
「ああ、うまい──けど、ちょっと薄味だな」
「え」
莉子は青ざめた、医者の言葉を思い出す、味覚に障害が出るかもと言っていた、それが今なのかと。
「レシピ見ながら作った? 莉子んとこは割と粒が大きい塩使ってるだろ、気持ち多めにした方がいいぞ」
そう言って莉子にも味見をさせる、言われてみれば、確かに少し塩気が弱いように感じた。
「あ、そうなんだ……」
尊は笑って塩を足す、小さいとは言え寸胴に、ほんのひとつまみ程。掻き混ぜ味見をして、 「もうちょいかな」 再度足して、それを莉子にも味見させる。
「──ほんとだ。美味しくなった」
「だろ?」
最後に僅かに味を直しただけなのに何故か自慢げな尊に、莉子は微笑む。
「……よかった」
場違いな呟きに、尊は不思議そうな顔で頭を傾けた。
「あ、ごめん、なんでも……」
それでも笑みは消えない。
(よかった、障害はない、きっと大丈夫だ)
心の中で納得する。
「んじゃあ、これも出して食べるか。明日の方がいい?」
「ううん、圧力なべで作ったからもう食べられるよ」
言って二人揃って食器を並べ、遅い時間の夕飯を食べ始める。
間もなく、インターフォンが鳴った。
「ん? こんな時間に誰……」
モニターを見た莉子は「あ」と呟く。
「拓弥くん」
「は? あいつ今日は遅くなるって……」
どこかへ行くと言っていた、何処だったか──。
莉子が玄関へ向かう、何故かドアを激しく叩いていた。
「全く、兄弟なんだから……」
尊と言い、早く開けろとドアを叩くのはどうかと思う 莉子がドアを開けると、拓弥は半泣きだった。
「拓弥くん、どうし……?」
「莉子さあん! なんで!? なんでCacco、辞めちゃうの!?」
「ええ!?」
驚く莉子に、拓弥は抱き付いた。
「やだあ、やだよお! Caccoの声が聴けなくなるなんてー!」
「嫌なのは俺だ、早く離れろ」
玄関まで来た尊が、拓弥の首根っこを掴んで莉子から引き剥がす。
「Caccoお!」
「莉子は香子じゃない」
「判ってるよぉ」
ぐずぐず泣いている拓弥をとりあえず部屋に上げた、テーブルの食事を見てお腹が空いたと言うので、それぞれの弁当から皿に取り出し、テールスープも出す。
それを涙をこぼしながら、拓弥は頬張りながら喋り出す。
「今日ぉ、Cacco with bangの東京ドーム3デイズの最終日でぇ」
ああ、そんな事を言っていたと、尊は思い出した。だから友達と食事はしてくると。
「そしたらぁ、最後の最後にCaccoが、Caccoが……」
う、と詰まって、大きな涙が零れ落ちた。
「うーん、当面はそんな気持ちにはならなそうだけど……そうなったら、尊には聞かせてあげる」
「お、特権だな」
ヒット曲を連発していたクリエイターが、たった一人の男の為に作ると言うのだ。
「そんな事ないよ」
莉子は笑いながら、鍋から小さな皿に白濁したスープを注いだ。
「ね、味見してみて」
尊は持ってきた弁当を脇に置いて、皿を手にする。
「ああ、うまい──けど、ちょっと薄味だな」
「え」
莉子は青ざめた、医者の言葉を思い出す、味覚に障害が出るかもと言っていた、それが今なのかと。
「レシピ見ながら作った? 莉子んとこは割と粒が大きい塩使ってるだろ、気持ち多めにした方がいいぞ」
そう言って莉子にも味見をさせる、言われてみれば、確かに少し塩気が弱いように感じた。
「あ、そうなんだ……」
尊は笑って塩を足す、小さいとは言え寸胴に、ほんのひとつまみ程。掻き混ぜ味見をして、 「もうちょいかな」 再度足して、それを莉子にも味見させる。
「──ほんとだ。美味しくなった」
「だろ?」
最後に僅かに味を直しただけなのに何故か自慢げな尊に、莉子は微笑む。
「……よかった」
場違いな呟きに、尊は不思議そうな顔で頭を傾けた。
「あ、ごめん、なんでも……」
それでも笑みは消えない。
(よかった、障害はない、きっと大丈夫だ)
心の中で納得する。
「んじゃあ、これも出して食べるか。明日の方がいい?」
「ううん、圧力なべで作ったからもう食べられるよ」
言って二人揃って食器を並べ、遅い時間の夕飯を食べ始める。
間もなく、インターフォンが鳴った。
「ん? こんな時間に誰……」
モニターを見た莉子は「あ」と呟く。
「拓弥くん」
「は? あいつ今日は遅くなるって……」
どこかへ行くと言っていた、何処だったか──。
莉子が玄関へ向かう、何故かドアを激しく叩いていた。
「全く、兄弟なんだから……」
尊と言い、早く開けろとドアを叩くのはどうかと思う 莉子がドアを開けると、拓弥は半泣きだった。
「拓弥くん、どうし……?」
「莉子さあん! なんで!? なんでCacco、辞めちゃうの!?」
「ええ!?」
驚く莉子に、拓弥は抱き付いた。
「やだあ、やだよお! Caccoの声が聴けなくなるなんてー!」
「嫌なのは俺だ、早く離れろ」
玄関まで来た尊が、拓弥の首根っこを掴んで莉子から引き剥がす。
「Caccoお!」
「莉子は香子じゃない」
「判ってるよぉ」
ぐずぐず泣いている拓弥をとりあえず部屋に上げた、テーブルの食事を見てお腹が空いたと言うので、それぞれの弁当から皿に取り出し、テールスープも出す。
それを涙をこぼしながら、拓弥は頬張りながら喋り出す。
「今日ぉ、Cacco with bangの東京ドーム3デイズの最終日でぇ」
ああ、そんな事を言っていたと、尊は思い出した。だから友達と食事はしてくると。
「そしたらぁ、最後の最後にCaccoが、Caccoが……」
う、と詰まって、大きな涙が零れ落ちた。