Crazy for you  ~引きこもり姫と肉食シェフ~
幼稚園の頃、腕を折って入院した。母は毎日見舞いに来たが、莉子と来て、莉子と帰る。 手を繋ぎ帰るその背中を見て、恨んだのを覚えている 病室の他の子は母や父が付き添って入院しているのに。香子の母だけは、莉子を連れて帰ってしまう。判っている、莉子も一緒には付き添いなどできないから帰るのだ。父は会社を休めない。仕方ないと、子供でも判っても、それでも淋しかった。

双子でなければよかったのに。

なまじ同じ顔だから、人は比べ、自分は劣等感を持つ。

だから香子は負けじと社交的になった。

自分を見て。

そう思って誰もよりも行動し、言葉を発した。莉子も自分に対して腹にいちもつ持っているのは判っていた。でも性格の違いなのか莉子はそれを表に出さない、それがまた気に入らなかった。どこまでお利口さん、そんな莉子が憎たらしかった。莉子に負けたくなかった。

なのに。

世間は莉子を認めた。

高校時代に頼んだ作詞だ。
皆から素晴らしいと褒められた。しかし皆、勝手に香子が作ったと思った、香子は訂正のチャンスを逃した。 莉子も何も言わない。ほんの少し悩み、良心の呵責とやらに囚われたが。 再度頼むと、莉子はあっさり引き受けてくれた。このまま嘘をついていていいのだと思った。 作詞作曲は大変な仕事だ、それを莉子が引き受けてくれるなら、こんなに楽なことはない。 二人は元は一つの受精卵だった、だったら苦労を分かち合えばいい。莉子が作り、香子が歌う。
そして名声は香子が得た、自己肯定感が満たされた。

転機はあった。プロデビューだ。自分が作詞作曲したと言ってる曲は実は莉子が作っていると橘社長に告白したが、「別にいいじゃん」だった。そのままズルズルと何年も莉子を使役した。 良心の呵責は、あった。それよりも莉子への加虐心の方が優った、いけないと思いつつ、心が満たされてしまう。莉子は何も言わない、言わないからいいのだろうと思い込むようにしていた。莉子を才能を開花させているのだと、思い込むように──。

「莉子は嫌い……私にない物を全部持っている」

香子の言葉に、龍一は笑う。

「莉子にないものを、香子は持ってるだろ」
「私がもっているのはつまらないものばかり……莉子の方が優ってる」
「へえ、そんな殊勝なことを思ってたのか。でもなあ、そんな事ねえよ? それぞれいいところはある」

香子はため息を吐いた。

「龍一がそう思うのは、私達の商品価値でしょう?」

ため息混じりの言葉を、龍一は鼻で笑う。

「まあな」

初めに香子の才能に目をつけたのは龍一だ。
< 80 / 89 >

この作品をシェア

pagetop