Crazy for you  ~引きこもり姫と肉食シェフ~
たまたま行った大学の文化祭で、香子が率いるロックバンドを見た。

素人だが、磨けば光ると踏んだ。最高の光を出すには、莉子の楽曲も必要だと看破したのも、龍一だ。その目に間違いはなかった。誤算だったのは、二人の仲の悪さだ。もっと和気藹々と二人揃って道を歩むと思ったら、予想以上の犬猿の仲に苦笑した。でもだからこそ。香子の価値は上がったと判る。これで莉子と仕事を折半していると知られていたら、香子の価値も半減しただろう。自身で作り、歌って踊って奏でる、美しい歌姫は最高の幻想だった。

「──香子、お前はどうしたい?」

低い声で聞かれ、香子は目頭に涙を溜めたまま、龍一を見上げる。

「どうって?」
「莉子をさ。このまま手放すの? 莉子の幸せ、祝ってやるの?」
「何よ、何が言いたいの?」
「バンドも解散して、独立して、やってけんの?」
「──無理だと言いたいの?」

流石に香子の声に険が混じる。

「まあ多少の路線変更はしても、しばらくはCaccoの余韻でやっていけるだろうな」

香子も25歳、いつまでもアイドルのような扱いはされない。それで言えば路線変更は必要だ。

「プロデュースしてやってる奴らも、徐々にうちに呼ぶが」

橘プロに所属するタレントは一年更新の契約だ、そのタイミングで龍一の新事務所に入れる手筈は、何人かには済んでいる。HAL(ハル)や流星にも声はかけたが、二人は恩のある橘プロを辞めないと選択した、だから解散の道を取った。

「そいつらのプロデュースはして、自分はどうすんの? まだ歌うの? なんなら事務方でもいいんだぜ?」
「何言ってるの? 歌うわよ、まだ歌える」
「自分で作って?」
「作るわ」

龍一は嗤う。

香子が作る歌も悪くはない、ただ何か物足りないのは何故か。香子は莉子が小賢しくて嫌いだと言うが、香子の歌はまさしくそれだ。規則正しいリズム、整列しているような詞、それらは一見心地よいが味気ない。

(見る目はあるのに勿体ない。しばらくはそれでやっていけるかも知れないが、長くは持たねえよな)

「──新しいゴーストライター、探すかあ……」

龍一の呟きに、香子は睨みつけたが、自身よく判っている、自分ではヒット曲は作り出せないと。莉子を手放すのか? その問いの意味だって判る。莉子はまだまだ、歌い継がれる曲を作り出せるだろう。莉子に曲作りをさせるべきだ。

「……莉子は嫌い……」

いなくなればいい。

少なくとも嫁にでも行って、同じ花村でなくなれば、少しは楽になるだろうか。
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