Crazy for you  ~引きこもり姫と肉食シェフ~
「あの、藤堂さん!」

中を見た藤堂は、大袈裟に溜息を吐いた。

大きい500リットルクラスの冷蔵庫なのに。
中はスカスカだった。ただスカスカならばいい、入っている殆どは缶やペットボトル──水やコーヒーや野菜ジュースに牛乳と、後は調味料がいくつかと言った具合に、液体が目立った。

数少ない固形物は、いくつかの佃煮と食べかけの菓子パン、ブロックタイプの栄養補助食品が未開封で二箱入っていた。

藤堂は菓子パンを手に取った。

「──賞味期限、一週間前に切れてますけど」
「えっ、あ、はい、捨てます……!」

莉子が取り上げようとすると、それは藤堂の手の中で、ぐしゃりと潰された。

「食べる事を粗末にしてはいけないと言ったでしょう?」
「あ、はい、食育、ですね」

藤堂の低い声に、びくびくしながら莉子は答える。

「こんなものばかり食べているんですか? どうみても、料理はしていませんね?」

15センチは高い藤堂に見下ろされ、莉子はますます小さくなって「はい」と応えた。

「女のくせに、とは思いません、俺は男のくせに料理は好きですから。でもこの現状は見逃せません、とりあえずは食べる事は楽しいと言う事を知っていただきたい」
「──はい」

別にいいのに、と思ったが、今そんな事言ってはいけないと十分に判る。

「これから毎日、ご飯を作りに来ます」
「──え!?」
「お弁当の代わりです。さすがに夜に来て作り始めては体に悪い時間にしか食事が出きません。明日からは開店前にこちらに寄って作りますから」
「そ、そこまでしていただかなくても……!」
「乗りかかった船です、あなたを健康な食生活に導きます」

莉子は天井を見上げた。

(そんなこと、望んでませーん!)

思っても声にはならない。

「あの……午前中は大抵、寝てますから……」

莉子が言うと、藤堂は盛大に溜息を吐いた。

「それがまず間違いですね。陽が昇ったら起きるくらいでないと健康的な生活は送れません」

(どうでもいいし!)

莉子は内心毒気づく。

「俺も開店準備があります、八時にこちらに伺います」
「は、八時ぃ!?」
「何か問題が?」
「(大アリです!)……いえ、起きます」
「起きるだけでなくてきちんと身支度をしておかないと。寝起きの無防備な姿など晒さないでください(襲うぞ)」
「は、はい……(無防備どころか夢の中だわ)」
「じゃあ、とりあえずは今日はこれを食べて」

キッチンの作業台に乗せてあった弁当を指し示した。

「早く寝るように。いいですね」
「──はい」
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