野獣は時に優しく牙を剥く

 澪を見るなり厳しい視線が向けられた。

「何、結婚相手は兄さんでも地味なのを選ぶわけ?」

 澪へ視線を向けたのは一度きり。
 その後は谷の方だけに体を向けて澪の存在自体を排除するような態度だ。

「虎之介、言い方に棘があるぞ。」

「そう?これでも言葉を選んだつもりだけど?
 綺麗系を見過ぎて違った方面も味見したくなったのか……。」

「虎。今日は澪のことを話す為に呼んだんじゃない。」

 耳が痛いけれど、全て納得出来る言い分だ。
 谷に釣り合わないことくらい自分が一番よく分かっていた。

 何より、虎之介の後ろに隠れるように立っている女性が誰なのか、ただならぬ雰囲気を感じて2人の会話が上手く頭に入ってこない。

「兄さんの婚約者は萌菜だろ?」

 萌菜の名前が出て隠れていた女性が肩を揺らした。
 その姿は可憐で儚げで、きっと大事に育てられたお嬢様だということが立ち姿と振る舞いだけで見て取れた。

 やっぱり谷とは違う世界で自分は生きていて、だから………。

 分かっていたことなのに、この場にいることがつらい。
< 156 / 233 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop