野獣は時に優しく牙を剥く
虎之介は自分のことを話すように萌菜のことを自慢げに話した。
その姿に『虎の威を借る狐』という間抜けなイメージが浮かんで自分の馬鹿さ加減にほとほと呆れてしまった。
虎之介の紹介によれば、雰囲気そのままのお嬢様である萌菜は町田ケミカルのご令嬢だった。
町田ケミカルは古くからある繊維メーカー。
谷の祖父へ靴の生地を卸していた頃からの付き合いのようだ。
今は最先端の繊維素材を開発し、世に売り出している。
確か、子煩悩な経営者として有名で代々子どもが多かったはず。
子だくさんでもお金持ちは違うなぁと他人事のように思っていた人は、もちろん自分には関係のないはずの人で、今、目の前にいることの方が信じられない気持ちになった。
そして、だからこそ兄に萌菜が相応しいのだと力説した。
「だから?
俺、自分の嫁くらい自分で選ぶ。」
冷めた対応をする谷は萌菜に小指の先ほどにも興味がなさそうに見える。
嘆息した虎之介は試すような眼差しを向けて、もったいぶった言い方をした。
「絶対に萌菜を嫁に欲しくなる、理由があったとしても?」