愛しいのは君だけ
ヴィンスは親しい人が呼ぶ愛称だけれど、王女様ならまぁいいかと思いそう伝えたのだが。
「では、私はあえてヴィンセントと呼ばせていただきます」
そう言われてしまった。
「なぜ……。」
「"ヴィンス"はあなたの愛称です。だから、親しい人はそう呼ぶでしょうね。それに、クロスフィリア公爵ともよく呼ばれるでしょう?」
「いや、それは確かにそうですが」
王女様はそれがなんだって言いたいんだか。
「あなたを"ヴィンセント"と名前で呼ぶ人がいないでしょう?」
「……っ、」
思わず言葉に詰まった。
確かに、僕をヴィンセントと呼ぶ人はいない。
呼んでいた人達はいたけれど、もう居ないのだ。
「だから、私はあなたをヴィンセントと呼びます」
「……っそれは、王女様の勝手に……して下さい」
「えぇ、わかりましたわ。では、私の事も王女様ではなく名前で呼んでくださいね」
王女様は私だけではありませんので、と微笑む。
いやいや、普通に考えて気軽に名前でなんて呼べるはずがないでしょう。
この王女様、やっぱり一から教育し直した方がいいと思う。
「それは無理ですね」