愛しいのは君だけ

「どうしてですか。王女の私がいいと言ってるんです」

「ヴィンス、名前で呼んでやってくれ」

「……シエラティローザ、様」

王家の王女様はみんな名前が長すぎる。


「"シエラ"でいいわ」

「……っわかり、ました」

シエラの有無を言わさない強い口調に、折れるしかなかった。


「あ、そうだわ。すっかり忘れていたけれど、ヴィンセントにお願いがあります」

「……何でしょう」

「あなたに触ってもいい?」

「…………は?」

このお姫様、なに考えてるの。

僕に触ってもいいかって?

これだからちゃんと教育し直した方がいいんだよ。

男についてなにも知らなさすぎる。

いつか襲われても文句言えない。


「だって、男の人に初めて会ったんだもの」

「ちょっと待て!姫様、何言ってんだ」

グランスはやっと状況を理解したのか、目を見開いて驚く。

シャルルは隣でクスクスと笑うだけだ。


「グランスだって、男」

「だって、グランスはシャルルのもの」

「……っな、」

「シエラ、何言って……っ」

男を知らないのに、それだけは知ってるってどういう状況?

だからって、僕になるのはおかしい。
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