愛しいのは君だけ
「おーい、まだか」
待ちきれなかったのか、グランスの気だるげな声が外から聞こえてくる。
「女は支度に時間がかかるものよ、急かさないで」
シャルルがそう言い返した頃に私はやっとドレスに着替え終わった。
ちょうど髪の毛をセットしてもらっている時に、グランスは遠慮なく部屋に入ってきた。
「遅い」
「セクハラになるわよ、グランス」
「着替え終わってんじゃねーの?……もう来てるから早く下来い」
「……ここ、関係者以外立入禁止エリアよ」
「知ってる」
「じゃあどうして……」
「この間話したの忘れたか。来てんのはクロスフィリア公爵様だよ」
「……っヴィンセントが?」
私は思わずイスから立ち上がる。
「あぁ、「今すぐ行くわ」
「ちょ……っシエラ、待って!まだ髪のセット終わってないわ」
私が歩いていこうとしたのを慌てて止めると、シャルルは素早く少し崩れた髪の毛を纏め直してくれた。
髪のセットが終わるなり、私はすぐに客間へと向かった。
置いていかれた二人は顔を見合わせ笑い、すぐに彼女が後を追って客間へ向かった。