愛しいのは君だけ
出会い
【貴族の男side】
目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。
だから、つい先程起こった出来事は全て夢だったのかと思っていた。
しかしノックもなしに部屋に入って来た男を見て、あれが夢じゃなかったんだと気が付いた。
「あ……。ヴィンス、ようやく目が覚めたのか」
そう言って微妙な笑みを浮かべる男は、もちろん僕の知り合いだった。
彼の名はグランシェル・レオ・フェントベルク。
親しい人は彼を『グランス』と呼ぶ。
エルトリアゼ伯爵家の次男で1つ年上の32歳。
子どもの頃からのいわゆる幼馴染みたいなもので、いつも公爵家の仕事の手伝いをしてくれている。
次男だから伯爵家の仕事を継ぐ訳でもないから。
でも彼の本職は"第一王女(プリンセス)"の専属騎士だ。
彼の7歳年下の婚約者、シャルルエネ・ノア・ジェラルドと共に王女様の護衛をしているらしい。
詳しく知らないけど僕は別にそれでも構わない。
だって第一王女なんて今まで1度も社交界で見たことがないし……。
だから本当に第一王女の専属騎士なのかもよくわからない。
「グランスがここまで運んでくれたの?」