愛しいのは君だけ
「だってお前、完全に酔ってた」
「お酒飲んでない」
「そんなの、分かってる」
あの少女から香ってきた薔薇の香りで酔ったんだ。
そう言えば、あの子は何者だったわけ。
あの男は、どうなった……?
どこまでが、現実?
「なぁ、お前はあそこで何してたんだ」
「今頭の中が混乱してる。どこまでが現実か分からなくなった」
「多分、さっき見たもの全てが現実だぞ」
グランスはため息混じりに僕のベッドへと遠慮なく腰掛けた。
さっき見たもの全てが現実……。
なら、あの子は……っいや、そんなことは別にどうでもいい。
僕には関係ないことなんだから。
「……大丈夫か?まだ、酔ってるだろ」
「いや、そんなことは無い」
それより、グランスはここにいて平気なのかと問いかけた。
するとグランスは眉を寄せて、「大丈夫だ」と答えた。
多分、これは大丈夫じゃない。
「僕の事は放っておいていいから。仕事がある時にまたここに来て」
「いや、放ってはおけない」
グランスが首を横に振ってそう答えた時、コンコンっと遠慮がちに部屋のドアが叩かれた。