クラスメイトの告白。


「汐野に言ってなかったっけ? 両親が事故で亡くなってること」


「聞いてないよ」


「あれ? 前に話したような気がするけどな……」


私は首を横に振る。


「まだ幼いころ、家族でハワイに旅行してるとき、事故が起きたんだ」


知らなかった。


伊原くんの両親が事故で亡くなっていたこと。


「いまでも、ふとしたとき急に襲ってくるんだよな……寂しさとか、逢いたい気持ちが」


そう言って彼は、夜空を見上げた。


「もう誰も失いたくない」


さっき、病室で彼が言っていた言葉が頭の中に浮かんだ。


『俺には茉雛しかいないんだから』


幼いころに両親を亡くした彼にとって、愛する彼女……白石さんの存在は誰より大切で、心の支えだったのかもしれない。


前に、彼は私に言った。


彼女が助かるなら、自分の命はどうなってもいいと。


また大切なひとを失ってしまうかもしれないと、どれほど怖かっただろう。
< 143 / 372 >

この作品をシェア

pagetop