クラスメイトの告白。


「だんだん緊張してきた……」


「伊原くんでも緊張するんだね」


「するよ。それに今日のライブの最後に歌う曲は、初披露なんだ」


「そうなの? 再来週発売のアルバムに入ってる新曲とか?」


「おっ! 風杏がムーンライトに詳しくなってる。少しは興味持ってくれたのか? あ、同じクラスのファンから聞いただけか」


ムーンライトのCDアルバムの発売が決定してから、休み時間の話題はそのことで持ちきり。


アルバムのプロモーションのため、テレビ出演やラジオ、雑誌などメディアに露出する機会が一気に増えるそうで、それを見逃さないようにクラスのファンたちは情報交換している。


いつものように、その話をただニコニコして聞いているだけでなく、今回の文化祭に出演してもらうことになってから、自分なりにムーンライトのことを勉強した。


登下校中や家でもムーンライトの曲を聴くようになり、いままで知らなかった曲も、歌詞を見なくても歌えるくらいになっていた。


メンバーのエピソードなどは、休み時間になれば、クラスの熱狂的なファンの子たちが聞かなくても教えてくれる。


いままではあまり興味がなかったのに、いまは些細なことでもムーンライトの知識がどんどん頭の中にインプットされていく。


それだけじゃない。


伊原くんの正体を知ってしまったからだ。


好きなひとのことを知りたい。


好きなひとを見ていたい。


好きなひとを応援したい。


ムーンライトの音楽が好きだから。


ムーンライトが好きだから。


クラスのファンの子たちも、きっとこういう気持ちなんだろう。


数ヶ月前までの私は、クラスの女の子たちを見て、誰かを好きになることや恋をする気持ちがうらやましくて、あんなにも憧れていたのに……。


初めて恋をして、叶わない恋のせつなさを知った。


会いたくても会えない、恋の寂しさを知った。


簡単に想いを消すことができない、恋の苦しさを知った。


人を好きになることは、つらいことのほうがずっと多いのだと知った。
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