クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
過去に負けてはいけない。その一心でアンナは言われた通りすぐに湯と布を用意し、ふと目についたドクダミの入った袋を手に取った。

ドクダミは抗菌作用、炎症を抑える。それに傷を早く治す再生作用を促す効能と止血にも効果がある。なにかの役に立つかもしれないと、それらを素早くジークに手渡す。

「ジーク様、これを」

ドクダミを見たジークが一瞬驚いた顔をしてふっと笑った。

「わかってるじゃないか。助かる」

出血は多かったものの傷自体は深くはなかった。しかし、貧血状態になり痛みに顔を歪めながら男の意識は朦朧としていた。

生々しい光景に何度も胃からこみ上げそうになったが、アンナはスカートの裾をぎゅっと掴み、恐怖を腹の底に押し込んでジークが処置をする様子をじっと正視していた。手際よく手当をするジークの姿に、一瞬父の面影が見えたような気がした。

(すごい……まるで魔法みたい。ジーク様は、お父様のすべてを受け継いだんだわ)

「お湯を取り換えますね」

「ああ、頼む。後少しだ」

アンナはジークの助手を務め、傷ついた男の命をなんとか繋ぎとめたくて「しっかりしてください」と懸命にその男に声をかけ続けた。

「すまねぇな、若い娘にこんな様を見せちまって」

うっすらと目を開け、男が小さく言葉を漏らす。

「この娘はそんなに軟じゃない。心配するな」

「へへ……可愛い助手じゃねぇか」
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