クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
そして数時間後。

無事に傷口は塞がれ、ジークの処置によって男は一命を取り留めることができた。呼吸も次第に安定して、冗談めきながらうっすらと笑う余裕を取り戻したようだった。

「ありがてぇ、ちょっと酒場で揉めちまってさ……あいつ、今度会ったら絶対許さねぇ」

男がゆっくりと起き上がると、悔しげにチッと舌打ちをした。

「やめておけ、今度はこの程度の怪我じゃすまないかもしれないぞ。お前にも家族がいるのなら、自分を大切にしろ」

男の左の薬指にある指輪を見てジークが諭すと「ああ、そうだな」と男は苦笑いを浮かべた。

「へへ、また喧嘩してきたのかって、かみさんにドヤされちまうな、早いとこ帰らねぇとガキも俺の帰りを待ってる」

なんとか歩いて帰ることができることを確認すると、男はお礼を言ってその場を後にした。

「大丈夫だ。あの調子なら容態が急変することはない」

いつまでも心配げにしているアンナの肩に手を載せ、一件落着とばかりにジークがふぅと息を吐いた。

「お前、まだ震えているな」

「え?」

自分でも気がつかなかった。男がいなくなった今でもまだ落ち着きを取り戻せず、なんとか隠していた恐怖だったが、ジークに悟られてしまった。情けなくて言葉が見つからない。

「今夜はひとりで寄宿舎へ帰すつもりはない。私と一緒にいろ」

ジークが被っていた帽子をとると、その表情は曇っていて深い蒼色の瞳がじっとアンナを見据えていた――。
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