クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
(専門用語ばかりで書いてあることすらわからない……これを全部理解しているなんて、ジーク様って本当に聡明な方なんだわ)

アンナは読み進めることを諦めパタンと本を閉じると、同時に部屋のドアが開いた。

「あ、ジーク様。おかえりなさい」

「ああ、今夜は少し遅くなったな」

ジークはいつものように笑顔で出迎えてくれるアンナにすっと目を細めて笑んだ。しかし、その顔には疲弊した色がかすかに滲み出ている。一刻も早く脱走したベアトリクスを捕らえなければならない焦燥感が空気を通じて伝わってくるようだった。

「リデルは一緒じゃないんですね」

いつもジークと行動を共にしている飼い犬のリデルは、いつもなら一緒に帰ってくるはずだったが今夜は姿が見えない。

「ああ、彼女は庭で夜の散歩中だ。そのうち帰ってくる。それより何をしていた? また勉強か?」

「いえ、本棚の物を少し読んでみようと思ったんですけど私には難しくて……あ、でも以前、ジーク様からお借りした本はもう全部読み終わりましたよ。すべて理解しているかどうかと言われたらちょっと怪しいですけど」

ジークの恩師である父から受け継いだ本を開くと、微かに懐かしいバンクラールの屋敷の匂いがした。アンナはそのたびに切なくなったが、ジークの役に立ちたいという気持ちに勝るものはなかった。
< 251 / 344 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop