ネェ、オレヲアイシテ?Ⅲ~Promise or Secrets~



「……俺、一千万が入ってるカードを妖斗に渡して、暗証番号を教えて、逃げろって言ったんだよ」

紅葉さんはそう笑いながら言った。

「え? 一千万ですか?」

「そ。どうせ妖斗は、その半分の500万しか使わないと思うけど。まぁでも、そんだけ金があれば、生活費も、他に必要だって言ってた金もなんとかなるだろ」


 言葉を失った。なんで、なんで見ず知らずの他人にこの人はそこまで……。

「なんて顔してんだよ。俺は平気だから。金がなくても生きてけるし」


「生きてけないですよ!!金がなきゃ、食事一つろくに取れませんよ……」


 傷の手当をするのをやめて、大声で俺は叫ぶ。

「……そう、かもな。でも、もうあげちゃったからな」

 紅葉さんは目尻を下げ、悲しそうに笑った。

「……なんでそこまでしたんですか」

 首を傾げて、俺は言う。

「……さぁ、何でだろうな。正直LOVE(あそこ)を好きになりかけてたし、接客も楽しいと思ってた。でも、思い出しちゃったんだよ、妖斗見てたら。……自分の過去のこととか、LOVEが、本当はどんな場所なのかとかさ。それで、10代の奴がいるような場所じゃないと思ってな……」

 目尻をさげたまま、紅葉さんは言った。


「……あそこは、地獄だからな。ホストは一見全員仲良く見えるが、裏で喧嘩し放題。愚痴の言い放題。


社長はサボり魔で毎日のように顔を出さないし、そのせいでNo.1の奴がしきってるから、同じ社員に仕切られる意味がわかんないって荒れる奴もいるし。

……それに、新人は他のホストの奴隷みたいなもんだしな」


 内容を聞いただけで、心臓を握りつぶされたような錯覚がした。


「本当に地獄……ですね」

「ああ、そうだよ。まぁ俺には、そんなイカれたとこしか居場所がなかったのも事実なんだけど、

妖斗(アイツ)は、違うだろ?

お前みたいな、大事にしてくれる奴がいるみたいだしな」


 そう言い、口角を上げて、紅葉さんは笑った。


< 67 / 139 >

この作品をシェア

pagetop