犬猫ポリスの恋日常

「そろそろあがってもらったら……」

千歩が声を掛けて、ようやく母は「そうね!」と二人分のスリッパを準備する。

千歩と秋人はそれを履いて、居間へ通された。

「ねぇ、お母さん。頼んだもの準備してくれた?」

千歩は台所でお茶の準備をしている母に問い掛ける。

近所の夏祭りに着て行く為の浴衣を頼んでいたのだ。

「あなたの部屋にあるわよ。まったくどういう風の吹き回しかしら。子どもの頃は“浴衣なんて動き辛いからいらない”って言って全然着てくれなかったのに。
こんなに大きくなってから着たって可愛さ半減じゃない……」

母の溜め息が零れた。

幼い千歩に浴衣や可愛いお洋服を着てもらうのが夢だったらしい。

浴衣と聞いて、秋人が驚いた風に千歩を見る。

「何よ……。秋君も似合わないって思ってるの?」

「いや、別に……」

とんだとばっちりだ。

秋人はこれ以上火の粉が飛んでこないように、千歩から視線を逸らしてお茶を啜った。
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