「夕暮れのノスタルジー」〜涙の落ちる速度は〜
『……涙の零れ落ちる速度って、あるのかな?』
あの日の彼女の問いかけが思い起こされる。
暮れていく空に、「速度なんて、ないだろう……」と、呟く。
「涙は、こぼれる速さになんて関係なく、勝手に流れるんだ」
そう勝手に……僕は10円玉を取り出して、ふたりの名前をギザギザに削ると、
夕映えのする空へと、放り投げたーー。
投げられた硬貨が、赤銅色に鈍く光って落ちていく。
何も知らないで、淡い恋心を抱いていただけのあの頃に、
もう戻れはしないことがわかると、涙は止まらずに止めどなく溢れた……。
終わり

