「夕暮れのノスタルジー」〜涙の落ちる速度は〜
「あ、こう君、元気だった?」

「うん、ミキちゃんも元気そうだね」

「ありがとうー向こうが楽しくてね」

「…そうなんだ、きれいになったよね?」

むせ返るような香水の匂いから顔をうつむけて、言う。

「そう? うれしい、ありがとうね…」

口先ばかりのお世辞に彼女は笑って、そうしてみんなが呼んでるからと戻って行った。

同窓会で彼女と交わした会話は、それだけだった。

あの頃のことなんて彼女は憶えてはおらず、全て忘れてしまったんだと思うと妙に物悲しくなった。


ーー翌日、地元を出る前に自転車で街のはずれに向かった。

色褪せた鳥居の前に着いて、自転車を降りる。

昔と同じ場所にある大きな石に腰を下ろして見ると、刻んだ文字がまだ消えずに残っていた。

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