「夕暮れのノスタルジー」〜涙の落ちる速度は〜

東京に行ってしまったら、もう本当に彼女とは会えなくなると思う僕の気持ちにはまるで気づかない素振りで、

「……いつまでもこんな田舎にいたって、つまらないしね」

独り言のようにも続けて、

「だから、絶対に受かるように、今は勉強頑張ってるんだ」

笑顔を向けた。

「……そうなんだ」

相変わらずそれしか言えずに、眩しいくらいの彼女の笑い顔から目を逸らした。

未来を語るミキちゃんの顔は、かつてと同じように赤く夕日が差して、バラ色にも輝いて見えた。

「ねぇそうだ、思い出にここに名前刻もうか？」

「…え、名前？」

「そう、名前…私が東京に行っても、こう君忘れないでね？」

「ああ、うん…忘れないよ」

お財布から10円玉を出して、石の上に"ミキ"と書いた彼女の横に、

"コウ"と10円玉で刻み付けた。

「これで、私のこと忘れないよね？」


頷いて、忘れないよ……と思う。

きっと、忘れない。忘れられない……。