「夕暮れのノスタルジー」〜涙の落ちる速度は〜
……遠く近くひぐらしの鳴く声が聴こえて、無意識に流れた涙に、
「…泣いてるの?」
と、顔を覗き込まれた。
「あっ…ごめん、ちょっとその寂しいかなって…」
目を擦って口にする僕を、
「私と離れるの寂しいと思ってくれるなんて、ありがとうね」
彼女も吊られたのか、泣きそうな顔つきで見つめた。
「ああ、うん…泣くとかかっこ悪いよね」
「ううん、そんなことないよ…」と、彼女が首を振る。
「……ねぇ、こう君」
呼びかけられて、顔を向けると、
「……涙の零れ落ちる速度って、あるのかな?」
と、ふいに訊かれた。
「……涙の速度?」
と、尋ね返す。
「そう…そういうのってあるのかなって、ちょっと思って」
「わからないな……」
答えて、
「……涙の零れ落ちる速さか、」
夕空を見上げた。
流れる沈黙の中で、一瞬だけ手が触れ合い慌てて離して、きっとこの夕暮れの雰囲気に呑まれて、ふたりしてノスタルジックな気分になってるだけなんだろうと感じていた……。