元社長秘書ですがクビにされたので、異世界でバリキャリ宰相めざします!
 
私も一応男なのだけれど、否応なしに身持ちが硬いことが幸い(?)してか、『日本から来た秘書官は女性に興味がないらしい』という認識になっている。だから今も大公妃の寝室に入れてもらえたようだ。

子供のような寝顔に残る母としての悲しみの跡を痛ましく思いながら、私は寝息をたてるゾフィー大公妃の頭を何度も撫でた。

……私は行政官として、この国の舵を取るクレメンス様の補佐として、オーストリアにとっての正しい選択をしなければならない。けれども。

(ゾフィー大公妃には笑っていて欲しい)

そう思う気持ちはどうしても胸の中から消すことはできなかった。



しばらくの間は部屋に閉じこもり元気を失くしていたゾフィー大公妃は、やがて少しずつ舞踏会や公務に出るようになった。

冬は王侯貴族にとって社交界のシーズンだ。大公妃の義務として出席しない訳にはいかない。

ただ少しだけ救いなのは、義務の舞踏会の合間にでかける観劇のときはいつもライヒシュタット公が彼女の隣にいたことだった。

ライヒシュタット公もゾフィー大公妃と同じように、彼女の妊娠を心から喜び、そして生まれなかった命を嘆き悲しんだ。

肝心なときにゾフィー大公妃の側に寄り添い慰めることはできなかったけれど、時間が経った今、ライヒシュタット公はこうして少しずつ彼女の心を癒し元気づけているように見える。

(やっぱり愛する人が側にいるのって大切なことなんだな)
 
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