Q. ―純真な刃―
扉の開く先に踏み入れれば、冷えた空気にたちまち熱がこもる。
シャンデリアのきらびやかな光が、夕日よりもまばゆくホールを染め上げていた。
重たい扉を閉めようとすると、目の前に新たな人影が差した。
「あ……」
「あら、あなた、今日は早いのね」
学校帰りの姫華だ。
いまだに見慣れない白園学園の制服姿に、思わずびくりと手元をこわばらせる。
防寒は赤チェックのマフラーだけなのに、ふしぎと寒そうに見えなかった。繁華街の外れまでタクシーで送迎してもらっているからだろうか。
ひだの細かなジャンパースカートをひるがえしながら、姫華は成瀬を横切って玄関ホールを進んでいく。
退屈そうにしていた仲間たちが一斉に姫華の周りに集まる。わんっと我先に飛び出したのは、忠犬の汰壱だ。
「Hey,女王様! How was school?」
「明日の終業式のリハーサルに手間取ってしまったわ」
「リハーサル?」
「そう、単なる終業式も白園学園では大掛かりになるのよ。みんなのところは今日が終業式だったのよね?」
「Yes. 無事に今学期を終えることができました」
汰壱がひざをついて両の手のひらを差し出すと、そこに赤チェックのマフラーが置かれた。
代わりに勇気が、先ほどもらった封筒を確認する間もなく渡す。
「千間さんから、これ預かったぜ」
「あら、来ていたのね」
受け取った封筒の中身を覗いた姫華は、にやりと口角を上げた。
「何なんすか、それ」
「ここに襲撃してきた男たちの身柄を渡したお礼よ」
バタン、と成瀬が扉を閉ざした瞬間、ホールにざわめきが走った。
振り返った成瀬が目にしたのは、姫華の手によって封筒から取り出された銃だった。
爆発的に弾が飛び出るように改造された、オートマチック型のハンドガン。トンネルにいた指名手配犯も使用していたものだ。
予期せぬ贈り物に、勇気は生唾を飲んだ。
「……そ、それで紅組の奴らを殺るんすか?」
「まさか。私たちのモットーは?」
「殺しはなし。100パー生け捕り」
「でしょう?」
「なら、何のために」
姫華は銃を照明にかざし、眼光をすっと凝らした。
「武器の流通が盛んになったころから、危惧していたことがあるわよね?」
「……紅組にも、武器が渡ってしまうこと」
「ええ、そう。それが現実に起こってしまった。これ以上、戦力をのさばらせるわけにはいかないわ」
県境のトンネルでの戦いを、成瀬は昨日のことのように思い出す。恐怖もさることながら、苦痛もひどかった。商売道具である体にあまり傷が残らなかったのは、不幸中の幸いだ。
もしも銃がなければ、もっとスムーズに片付けられただろう。作戦も必要なくなるくらいに。
「だからこれでおびき寄せるのよ」
くるりと器用に銃を回しながら、銃口を下に向けた。
「武器商人――赤い爪の男とやらを」
カチャリ、トリガーが引かれる。装弾されていない銃は、かすかな息を漏らした。
口紅の艶を広げ、姫華は丁寧に銃を封筒に仕舞った。