Q. ―純真な刃―
「千間刑事から、あの男たちについての報告はあったかしら」
「はいっ! それについてはボクからお話させていただきます!」
千間と直近の共有を交わした汰壱は、わかりやすく要約し、全体に伝えた。
あの夜、神雷を襲撃したのは、たったふたりの男だった。
いくら武器を大量に用意していたとしても、無謀な愚策であることは猿でもわかる。それなのに、わざわざたまり場に乗りこんできた。
『こ……このことを、か、嗅ぎ回ってる奴を……殺れって……そ、そしたら、金をやるからって……』
と、男は言っていた。
つまり、報奨のために、武器商人を嗅ぎまわっている者を片っ端から探していたのだ。それで神雷にまでたどりついた、その執念は称賛に価する。
だが、それだけなら、仲間を助ける必要はない。ほかにも目的があると考えるのが自然だろう。
千間の調べによると、彼らは身寄りのないホームレスだった。
孤児や家出や失業、ヤクザなどの裏社会の人間から追われていたり逆に見捨てられたりした人も少なくないらしい。
男の口ぶりから、ほかにも武器商人から交渉を受けた輩がいることが判明している。おそらく同じような境遇なのだろう。
千間と汰壱でひとつの仮設を立てた。
武器商人のクエストをクリアしたら、手下として仲間になれるのではないか、と。
だから、とりわけ情に弱い男は、早くも仲間意識を持っていたし、鬼気迫る執念を抱いていた。
何も持たない孤独な人にとって、自分だけのコミュニティやテリトリーは、のどから手が出るほどにほしいものだ。すべてを一度に手に入れられるチャンスが、この先いつあるかわからない。
彼らはただただ必死だったのだ。
「またあの夜のような襲撃があるかもしれません。武器商人と交渉したという山小屋は、すでにもぬけの殻だったそうです。襲撃を防ぎつつ元凶のしっぽをつかむには、女王様の言うとおり、その銃を利用し仲間に扮して捜査するのが最善かと思われます」
そう締めくくり、説明が終わる。
姫華はなぜか成瀬のほうを向いてほほえんだ。
「信憑性ある仮説ができたのは、あのときのあなたの演技のおかげよ」
「え……」
成瀬の心臓がドキリと跳ねた。突然のことに驚いたわけでも、ほめられて喜んだわけでもない。嫌な予感がした。
「次もよろしく頼むわね」
「は?」
「ボスのふりをして、輩に近づいてきてちょうだい」
「ぼ、ボス!?」
案の定、銃の入った封筒を、胸に押しつけられた。
「そうよ。あなたは、武器商人から銃を頂戴した架空の半グレチームのボス。同じ銃を持った輩から、商人や交渉に関する情報をできる限り多くくすねてくるの」
「ちょ……待っ……」
「ちょうどさっき、タクシーの運転手から、繁華街で闇取引が横行しているという噂を聞いたところよ。もしかしたら目当ての人物もいるかもしれないわ」
「な、な……なんで俺が!?」
彼女は涼しげに頬に手を添え、首をかしげた。
「ドラマの主演、なのでしょう?」
「そ、それは……」
「あなた以外に適任はいないと思うけれど。それに……なにも戦に行けと言っているわけではないのよ。あくまで情報収集。あなたにもできる簡単なお仕事よ」
できないとは言わせない圧があった。
ひとりでは不安ならと、副総長ふたりをおともに付かせることになった。女王直々の命令に、勇気も汰壱も快く了承した。
半ば強制的に封筒を持たせられた成瀬は、はじめて持つ銃の重みに身体が軋む。
眼前には、依然として凛と咲いている、黄金の花。
彼女から目を逸らすことも、背くこともできない。
成瀬の心の裏側が、ざわりと粟立った。