Q. ―純真な刃―


黒く透過されたレンズを隔てていても、周囲が青ざめているのがわかる。同じ西高の制服を着た少年少女が、恐怖のあまりテイクアウトしたポテトとジュースを落としていた。脂っこい匂いのしみついたコンクリートに、しゅわしゅわと散っていく炭酸の跡。

なんてあっけない。成瀬の意識はいたずらに流れていく。


ふと、視界の隅に、閃光が留まった。




(……? 今のは……)




つられて視線を振ると、行列の並ぶバーガーショップの路地に、ネオンとはまたちがう光がちらつく。

成瀬ら三人が特別にそろえた証と同じ、色濃く煮詰めた、魔の色。

真っ暗闇のなか、その色だけを先端に宿した手が、うごめいていた。




(……赤……。赤い、爪……)




赤い爪?


はっと成瀬の瞳孔が開いた。

暗闇に溶けた黒いフードを身にまとう謎の人物が、赤い爪をした手でフードを深めにかぶり直した。

そのときたしかに見えたのは、フードからわずかにこぼれた赤――ではなく、金の滴る髪の毛だった。




「あれは……」

「ボス? どうしました?」

「なにぼうっとしてんだ。あっちに何かあったか?」




一瞬ふたりに視線を移した間に、赤い爪の形跡はきれいに消えていた。見間違いだったのだろうか。

引き寄せられるように成瀬の足は路地へ向いていた。汰壱と勇気はふしぎそうにしながらも、遅れてあとを追いかける。

急に進路を変えたヤクザ一味に、周囲から金切声が上がった。バーガーショップから人が逃げていく。


周りのことなど一切気にせず、三人は路地の奥まで入っていく。

薄暗闇に排気ガスが漂い始め、全感覚を鈍らせる。

サングラスをかけているおかげか、あまり支障なく進めた成瀬は、無事に突き当たりまでたどり着いた。


カチャリ。記憶に新しい、無機質な音がした。




「……あ? てめぇら、何だ」




先客がいた。

中肉中背の男と、猫背の女。そのふたりだけ。やはりフードの人物はいない。


小バエを踏み潰した男女は、とっさに手に持っていたものを背に隠した。

しかし、時すでに遅し。それが銃であることは、神雷の副総長はめざとくチェック済みだ。

サイズは成瀬の持っているものよりも小さく、ポケットにおさまるほどだった。けれど武器商人の取扱品には特徴があり、引き金が錆びついているかのように赤黒い。男女それぞれが持つ銃にも、見事にその特徴があてはまっていた。




「ラッキーですねボクたち」

「お前、いい嗅覚してんな」

「……いや、俺は……」




笑みをこらえる汰壱と勇気に、怪しい男女はあとずさりながらも睨みつける。




「な、何なんだてめぇら……じろじろ見てんじゃねぇぞ!」

「さ、さっさと失せなっ」

「まあまあ、落ち着けって。な、ボス?」




勇気に肩を叩かれ、成瀬は喉を引き締めた。

そうだ、ボスだ、ちゃんとボスになりきらねば、と一度ぎゅっと目を瞑った。瞼の裏に残る鮮やかな色を真っ黒に塗りつぶしていく。

息を細く吐き出しながら、瞼を押し開けた。




「どこのどいつか知らねえが、そんな冷てぇこと言わないでくれよ。俺らはお前さんたちと一緒だってのに」




とたんに成瀬の声色に凄みが増した。

サングラスをやや下にずらし、白濁した右目を眇める。それだけで銃を持つ男女は、黄ばんだ歯をがたつかせる。




「い、い、一緒?」

「そう、一緒。お前らも、あいつからもらったんだろ? バーガーよりうまいもんを」




成瀬はズボンのうしろ側にあるポケットに、手を突っ込んだ。ゴールドのチェーンが耳障りな音を立てながら揺れる。

もったいぶって取り出されたソレに、怪しい男女は目の色を変えた。




「そ、それは……!」

「あたしたちと同じ……!」




男女は隠していたものを正面に持っていき、成瀬のソレと照らし合わせる。

引き金の赤黒いハンドガン。仲間である証拠だ。




「な、一緒だろう?」




不敵に笑う成瀬に、男女はあっさり警戒を解き、ぺこぺこ頭を下げた。

成瀬はちらりと横にいる汰壱と勇気を見やると、グッドサインを出され、危うく全身脱力しそうになった。




(あー、こいつらがちょろくてよかった)



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