Q. ―純真な刃―
ボスと聞いて、極悪人か神雷の女王のイメージしかない成瀬は、どうしたもんかと悩んだ末、風都監督の貫禄を手本にすることにした。ちなみに、汰壱のアドバイスだ。
生まれつきカリスマ性のある風都に、果たしてなりきれるのか甚だ不安ではあったが、成瀬がただ見下ろすだけで媚びへつらってくるあたり、成功といえよう。
従えてしまえばこっちのものだ。
バトンタッチと言わんばかりに汰壱と勇気が一歩前に躍り出た。
「キミたちは例のクエスト、受けました?」
「クエスト? ……ああ、あの人からの依頼のことっすか。もちろん受けましたよ!」
「へえ……。俺たちにはボスがいっから興味なかったが、たしかにお前らみてえなもんには都合がいいかもな」
「そっか、あなた方にはもう帰る場所があるんすね。うらやましい……。あたしたちはこの依頼に懸けるしかないんすよ」
やはり仮説は正しかった。
ホームレスだから武器を求めたのかはわからない。しかし、大なり小なり犯罪に手を染める意思はあっただろう。そのやる気を、武器商人は利用した。依頼が達成されれば、両者ともに多大なる利益が生まれ、失敗してもたいした損害はない。
クレバーな印象のある武器商人だが、この男女も、あの夜襲撃してきた野郎二人も、ホームレスにしては身なりが整っていて、そういう世話までしてあげているのかと思うと人物像がなかなか定まらなかった。
まだ交渉しただけに過ぎない他人に、どうしてそこまでできるのか。そんなの、ただのおせっかいがやることじゃないか。
「クエストの進捗はいかがですか」
「ネズミは駆除できそうか?」
「まだ何も。これから探し始めるとこっす」
「もらった写真の奴を突き止めろなんて、なかなか骨が折れそうですよね」
「……写真?」
勇気は首をひねった。
「写真ってなんだ」
「武器について嗅ぎまわっている奴を探しているはずでは?」
「え? 何のことっすか?」
「写真の奴を見つけろって依頼っすよね?」
依頼内容が、変わっている。
すぐに写真を見せてもらう。携帯画面にモノクロの顔写真がいくつか並んでいる。どこか見覚えのある顔が多かった。
いち早く気づいた汰壱が、ひゅ、と息をのんだ。
それは、神雷も追いかけている顔ぶれ――指名手配をかけられた、紅組の残党たちだ。
「な、なぜこれを」
「さ、さあ……? さっき聞いたときは、ただ見つけろとだけ」
「捕まえるんじゃなく、居所だけわかりゃいいって言ってたよな」
写真を目に焼き付けていた勇気が、反射的にばっと顔を上げた。
「さっき? さっき交渉したのか!?」
「え、あ、そう、だけど……」
「商人がここに!?」
「どちらに行きました!?」
「あ、あっち、だけど……」
中肉中背の男が指さす細道へ、汰壱と勇気は一目散に走り出した。
あの、赤い爪の人影が、成瀬の瞼によみがえる。
そのせいで銃をポケットに入れるのに手こずり、ふたりより出遅れてしまった。ぽかんとする男女に適当な挨拶を残し、細道を進んでいく。
汰壱と勇気の姿は、とうに見えない。
細道の先は二手に分かれていた。成瀬は直感で左のほうへ駆けていく。
月明かりの差した出口から響くは、車の走行音と酒に酔いしれた喧騒。そして、それらにまぎれるように、
「うわあっ!?」
かすかに悲鳴がつんざいた。
成瀬は足を速め、細道を抜ける。繁華街の大通りから一本逸れた裏道に出た。
コンビニのある左手に、ようやっと蛇の皮で着飾られた背中を発見した。なぜかコンビニの前で停止している。
近くに、もうひとり、着古されたジージャンの姿は見当たらない。おそらくあの分かれ道を手分けしたのだろう。
「なあ勇気! 商人はいたか?」
「……」
「勇気?」
二度ほど声をかけても、ぴくりともしない。
さすがにおかしい。おそるおそる近寄っていく。
「……勇気?」
不意に、成瀬ではない別の声が、その名を口にした。