Q. ―純真な刃―



「エキストラの皆さん、はじめまして。RIOっていいます」




ヘアメイクを始める神雷メンバーに、利央は自ら挨拶しに行った。少女役のシーンをすべて終えたにもかかわらず、まだ女子用制服を手放さずにいる。

ドラマ初回放送をみんなで鑑賞した神雷メンバーは、もちろん利央が男であることを把握している。……はずなのだが、どこから見ても美少女でしかない利央に、不覚にも頬を染めている奴が数名いた。




「お噂はかねがね伺っています。お会いできてうれしいです」

「噂って?」




ヘアメイクのスタッフが、きょとんと首をひねった。




「なんでも円さんのお知り合いだそうですよ」

「なるほど、本当の友情出演ってわけか。監督も粋なことするなあ」

「ですよね。俺も共演したかったです、残念〜」




ちらっと利央が成瀬に目配せする。




(あいつ……全部知ってっからって、おもしろがってやがる)




実は、風都が成瀬にだけエキストラについて共有していたとき、利央が抜け目なく仲間に入ってきたのだ。

成瀬が世話になっているという神雷に興味を持ち、接触の機会をちゃっかりうかがっていたらしい。こうなると成瀬と神雷の関係を知ったのも怪しく思えてくる。


あの神雷相手にも、世渡り上手な利央のコミュ力は健在だ。初対面とは思えない盛り上がりを見せている。まるで利央も神雷の一員のようだった。

何はともあれ、エキストラの素性が一部公表されたことにより、気さくに話せる空気ができあがった。汰壱と勇気はこれ幸いと、ヘアメイクの待ち時間、他人のふりをする知り合いに絡みに行った。




「ハロー、ミスターナルセ!」

「円、お前、早退じゃなくて転校したん?」

「はぁ……。お前らも今から転校だよ、準備しろ」

「ボクらは和装なんですよね? I can’t wait!」

「えー、その制服のがよかったな。西高のより全然かっけえし。青のブレザーもらえねえかな」

「衣装だからこれ。ほしけりゃ自力で探せ」

「ボクもほしいです! グッズ化希望!」




神雷メンバーがエキストラとして参加するのは、トシヤの心の葛藤を描く空想の戦闘シーン。

苦悩を擬人化した大軍の敵が、刀を持たない平凡な高校生に戻ったトシヤに襲いかかるのだ。

あくまでトシヤの脳内での出来事なので、舞台は現代の風景、敵は幕末の恰好をし、悪夢らしいちぐはぐ感を表す構想になっている。




「てかなんでエキストラ引き受けたんだよ」

「逆になぜ引き受けないと思うんです!? セーイチロー殿のドラマに出られるチャンス、逃すわけないじゃないですか!!」

「俺、誠一郎さんが監督やってるとこ、一回見てみたかったんよな」

「You can say that again! 監督のセーイチロー殿、新鮮でかっこいいです……!」




舌を出す犬のような汰壱と比べると、大人びて見える勇気だが、風都を追う眼差しは負けじとキラキラ輝いている。ほかの奴らも不良らしからぬ純度100%な面構えをしている。千間がたまり場に来ていたときでも、ここまで無邪気ではなかった。

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