エメラルドの祝福～願えよ、さらば叶えられん～
震え続けるベリルは、ふと、ドレスの隠しに入れていたエメラルドが熱を持っていることに気づいた。
一瞬、涙が止まり、ベリルを正気に戻す。

【君の願いはなに？】

「……ねが、い」

魔法使いの声がする。熱すぎない温度で熱を放つ魔石に、少しずつベリルの心は落ち着いてきた。

願いは、もう一度ローガンに会うことだ。ここから無事に脱出して、ベリルとして彼と話がしたい。

【君の願いは……】

だが、そんな願いが叶うわけがない。夢の中の魔法使いは、これは交換の魔法だと言っていた。
シンディとベリルの顔を交換し、再び戻したのだから、人知を超えた力はあるのだろうが、なにかを交換することしかできないのだ。

「……泣いていちゃダメ。なんとかしてここからでなくちゃ」

窓からの脱出は不可能。とすれば、扉から出るしかない。手の自由は奪われているが、足は動かせる。
部屋に取り付けられている鍵は、外からかけられても内側から開けられるタイプのものだ。

フェンレイにさえ見つからなければ、うまく逃げることはできるかもしれない。

ベリルは扉に向かって耳を澄ませる。馬車の止まる音がして、しばらくしてまた遠ざかっていった。ヒューゴが一度出ていくのかもしれない。
それからこちらに近づく足音が聞こえる。ヒューゴのものか、フェンレイのものか。どちらにしろ、自分にいいことは起こらないだろう。せめてもの時間稼ぎに、扉に背中を当てて陣取り、足で踏ん張って耐えた。

「開けるぞ」

声はフェンリルのものだ。
声をきいただけで、足が震える。けれどここであきらめるわけにはいかない。
もう、ただわが身の不幸を嘆くだけの自分では居たくなかった。

（ほんの少しでいい。私、勇気と力を）

ベリルがそう強く願った瞬間、ドレスの隠しに入れていたエメラルドが強い光を発した。
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