先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~
営業部に戻ると花笑がちょうど帰ろうとしていたところだった。
「お、お疲れ様です…」
目も合わせず通り過ぎようとするから、咄嗟に腕を取った。
「松崎、ちょっと」
これは何かあったな…と隣のミーティングルームに連れて行く間に何があったか考えた。
花笑を先に入れ鍵を閉め、振り返らずに下を向く花笑を見てさっきの走り去る足音を思い出す。
聞いていたのは花笑か?
また間の悪い…。小さくため息を吐き花笑を後ろから抱き締めた。
「っ…か、課長?」
頭に頬を寄せギュッと腕に力を込めた。
「花笑、さっきの聞いてただろ」
「え…」
「人の気配がしたから誰かがいたのは気づいていた。さっき顔を合わせた途端、逃げるように帰ろうとしたから…お前だろ?」
「…ごめんなさい…立ち聞きなんてして…」
「別に、お前ならいい。逆にすまないな、聞きたくないことも聞いたんだろ?」
「航さん…」
やっぱり聞いていたのは花笑か…
ゆっくり腕を離し振り向かせるとすでに涙を溜めてこちらを見つめてくるから堪んない。
「また泣くんだなお前は。もう泣かせたくないと思ってるんだがな…」
「う…だって…」
「花笑、俺の目を見ろ」