【完】さつきあめ
「ひどい…」

わたしだってレイの事を良くは思っていなかった。
けれどそこには明らかにお店の事情を知るであろうキャストらしき書き込みもあった。

‘レイはシャイン時代からずっとここの社長と関係があったんだよー。だから社長のために頑張ってるんだよぉー’

内部でしか知りえない事情さえ漏れている。

「酷いって言っても、そういう世界だからね…」

「でも綾乃ちゃん…こんなのあんまりだよ…。
匿名で何でも書けるっていったって卑怯だよ…」

「レイが色恋して枕したのはきっと事実でしょ。
そういうの、自業自得っていうのよ」

でもそれは、光のためであって…確かにやり方は間違っていたのかもしれないけれど、レイのそこまでの光への気持ちも考えてしまう。

「あのねぇ、さくら、お店にひとりそういう子がいるってだけで、あたしたちも同じように見られたりもすんの。誰かのため、なんて過程は綺麗かもしれないけど、レイのやってることは事実だけ並べたら汚いやり方なの」

いつも他人にあまり関心のない綾乃がここまで言うなんて…。
わたしはやっぱり綾乃と光の関係を疑ってしまう。
朝日は、光の彼女を知っているようだった。…もしかして、やっぱり光の彼女は綾乃なのか。

「でも綾乃ちゃん!レイさんのやったことは確かに間違っていたかもしれないけど…こんなのは絶対違うよ…」

「あら、さくら、ライバルを庇うの?」

抑揚のない口調で綾乃が言う。


「レイも、さくらも、有明のためにバッカみたい。
さくらはあたしに隠してるつもりかもしんないけど、さくらの気持ちなんかお見通しなんだから」

お見通し。
抑揚のない口調で、静かに煽る、綾乃が出会った頃の綾乃とはまるで別人のように。
大好きだった、優しい綾乃が違う人に見える。

「ちょっと、ちょっと、さくらも綾乃もやめなよ~…。おかしいよ、ふたりとも~…」

美優が止めに入るけれど、頭にカッと血ののぼったわたしは止まらなかった。

< 140 / 598 >

この作品をシェア

pagetop