【完】さつきあめ
「だいじょうぶだよー光。でも心配して来てくれたんだね。嬉しいよ」

「そりゃー心配するって…
お店で女の子とやりあったとか連絡来たかと思えば、今度は殴られてぶっ倒れたとか…警察沙汰かよ、って…」

「綾乃ちゃんに殴られた。
まぁ最初に殴ったのは、レイの方だけどさ、でも倒れたのは殴られたからじゃなくて、ただたんに疲労がたまってたからだと思う」

「そんなになるまで頑張りすぎんなよ」

「光のためなら頑張るよ」

「だからってお前…」

「だってレイにとって光は希望なんだよ」

「レイ……」

足元がすくむ。
2人の間に入っていける雰囲気じゃなかったし、ここに居て、2人の会話を聞くのも嫌なんだ。倒れたレイの前で失礼だったかもしれないけれど。
こんな時まで嫉妬して、鬼のような自分になりたくない。

「じゃあ、あたしは…ここで…」

「待って!さくらちゃん。
光、来てくれたのはすごく嬉しいんだけど、レイ、さくらちゃんに話があるから…ちょっとだけ2人きりにさせてもらえる?」

引き止められて、「わかった」と光が言い残して病室を出て行ってしまったから、ここから逃げることさえ出来なくなってしまった。

残された空間で、病室にかけられた時計だけがいたずらに時を刻む。
レイは真っ白な天井を見つめながら言う。

「ねぇ光って本当に優しいよね。
こうやってレイが倒れたらあんなに慌ててきちゃって
すっごく心配してくれちゃって、あんなの好きになっちゃうじゃんね…」

「…そうだね」

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