【完】さつきあめ
11月の締め日には、桜井と同伴することが決まった。
わたしと綾乃の売り上げの差はもうなくなっていた。
それどころか、今月はシーズンズが始まって以来の売り上げになる、と深海は神妙な面持ちをしながら言っていた。
今まで系列でシーズンズに抜きんでるほどの成績を上げるような女の子はいなかった。だから何となく他の系列からは下に見られていた。
けれど、今月の売り上げにより他店に一目置かれるようなお店になり、女の子たちの撮影も増えた。
シーズンズが入っているビルには大きな看板が設置される予定と、お水の女の子たちが集う雑誌でも特集が組まれるかもしれないと噂を聞いた。
もちろん高橋は褒めてくれたし、今まで実力はありながら会社的には認められてなかった深海の評判もうなぎのぼりだと聞いた。
嬉しい事のはずなのに、深海はいつものポーカーフェイスを決め込んだまま、わたしには嬉しそうには見えなかった。

「さくらちゃん、グラス空いてる。何飲む?」

彼の細やかな気遣いは相変わらずだった。

「あ。じゃあ、どーしよーかなぁー…」

「ワインでも飲もうか?」

「お店行く前からワインなんか飲んだら、お店についた時潰れちゃう」

「はは、そうだね」

「あたしも桜井さんと同じ芋焼酎飲むっ!」

「え~、苦手な人は苦手だよ??」

「う…まず…」

「はは、ほらぁ~!」

芋焼酎のボトルで、桜井の真似をして水割りを作って飲んでみたら、口中に何とも言えない香りが広がっていく。
…わたしにはまだ早かったのだろう。

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