【完】さつきあめ
「はぁ~、ほんと、さくらちゃんといると仕事の疲れも癒される~」

優し気な瞳を向けて、優しい言葉をくれる彼が大好きだったのに
いつもどれだけお酒が入っても紳士的で、我儘なんか1つも言わなくて、わたしの望み通りに大量のお金をお店に落とし、それでもなおも店の外で会ったり休みに会いたいなんて言ってこない、お客さんの鏡のような人だったのに…。
実際この数か月シーズンズで働いていて、休みの日に会いたがったり、わたしのプライベートに入り込んできたがるお客さんは少なくはなかった。
それでもわたしはラッキーな方で、そういったお客さんが少ない、と深海が言っていた。他の女の子のお客さんはもっと酷いよ、と言った。
それでもなおも1番お金を使ってくれるお客さんなのに、ここまで聞き分けの良い桜井が少し怖かった。

「そんな~…
わたしの方こそ、今月は感謝ですっ!
桜井さんのお陰で、すっごく成績上がっちゃった」

「さくらちゃんの為になるなら、それは嬉しいことだ」

お金を使えば使う程、人は我儘になる。
見返りを求めるようになる。
けれどこの人はそんな隙さえ見せないのだ。
でも、言葉に出さないからと言って望んでいないとは言えない。
無欲な人間など、いないのだから。

「さくらちゃん、すっごく人気だからあんまり席につけないの寂しいけどね!」

「いやぁ、そんな人気じゃないですよ…。でも何か申し訳ありません…」

「いや冗談だよ。シーズンズはヘルプの女の子が着いてくれても楽しいし、それにさくらちゃんが人気あるのもわかる気がするから」

「あたしなんてまだまだですよ…。
今月は桜井さんの応援もあって、目指してたものに手が届きそうな感じで…」

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