【完】さつきあめ
「余計な事ばっか…」

更衣室で着替えながら、独り言。
大切な日に心を揺らす出来事ばかり重なってほしくない。
ワンピースに着替え、メイクを直して、自分に喝をいれるように両頬を軽く叩く。

ゆりの狙いは一体何だったのだろうか。

「さくらちゃん~!ごめんねぇ!こんな忙しい時に、ゆりどうしてもさくらちゃんに会いたくなっちゃってぇ~!」

朝日の家で会った時より何トーンか高い声。
指先まで綺麗なその人は、優しい言葉で、小さな敵意をわたしに放っていた。
思ってもいないような真っ赤な嘘がどの口をついて出るのだろう。

「なんかごめんね、ゆりがどうしてもさくらちゃんに会いたがって。
君たち、友達なんだって?」

…友達なんかじゃない。
けれど、ゆりはわたしが何かを答える前に、小笠原の腕にぎゅっと抱き着いた。

「小笠原さぁ~ん!そぉなの!ゆりとさくらちゃんはこの前偶然会ってしまって、すっごく仲良くなっちゃったのぉ~!」

甘ったるい声を出す。
それはレイの接客とよく似ている気がしたが、それともまた違う。

「実はぁ~、ゆり、この間酔っぱらっちゃってお店に忘れ物したの…。
すごく大切な物だったんだけど、黒服さんに連絡がつかなくて…。
偶然社長に連絡がついて、社長が届けてくれることになったんだけど~…」

「あぁ、有明くんか」

「そぉ!有明社長!小笠原さんもよく知ってるでしょぉ~??」

光の話題を出して、この女は何をしようとしているのだろうか。

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