【完】さつきあめ
深海に助けられた。
いつもは不愛想なくせに、こんな時いつだって助けてくれる。そんな小さな優しさに触れ、涙が出そうになった。

この忙しいのに深海は小笠原の席でシャンパン1杯を飲み、ゆりたちは慌ただしくお店を出ていく。深海のお陰で小笠原は上機嫌で、月末にごめんね、ゆりにどうしても今日同伴してほしいと頼まれて、とわたしへ申し訳なさそうに言い残した。

「さくら、次安井さんのところ着くぞ。オープンから入って随分待たせてる」

さっきまでの柔らかな笑顔と違い真面目な顔に戻る。

「あのっ深海さん、あ、ありがとうございました!」

「ゆりは他店の女の子とつるむようなタイプじゃないからな。
こんな日に小笠原さんと同伴なんて何か裏があると思ってた。
何があったかは知らないけれど、厄介な女に目をつけられたもんだ。…何となく想像はつくけど」

「はい…。
それより、深海さんが光と同じ大学だったなんて」

「あぁ…俺はあの人に誘われてこの業界に入ったようなもんだからな。
あの人の事は昔からよく知ってる。そんな俺の言葉なら、お前信じられるだろ」

「え?」

‘俺から言えることは、社長と綾乃はさくらが思っているような関係じゃないよ’
いつかの深海が言っていた言葉。
あの時は光と綾乃の関係を疑って心がぐちゃぐちゃになっていた。
そんなわたしに深海ははっきりとした答えは出してくれなかった。
けれど、昔からの付き合いがある深海は光と綾乃はわたしが思っているような関係じゃない、と言った。

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