【完】さつきあめ
「えー!あたし最近ゴルフ始めたばかりなんですよ!」
「全然まだへたくそだから教えてくださ~い!」
「体力はあるから全然朝からゴルフに行っても、夜の仕事に行けますよー!
えー同伴してくれるんですかー?!うれしーい!」
凜は更衣室で見せた顔とは全然違い、よく笑いよく喋り、お客さんの話題に合わせるのがとてもうまい人だった。
さりげなくボディタッチをしたり、連絡先をすかさずに聞いたり、かなり積極的な接客だ。少しだけイメージしていたのと違う。
色恋営業かな?と思っていたけれど、色を使うタイプではなく、あくまで会話でお客さんを楽しませるタイプだ。
「君は?名刺はないの?」
わたしの隣に座っていた森田が、隣のゆいに言った。
「あ。ごめんなさい、ゆいです」
そう言って、そっけなくゆいは名刺を手渡す。
頼んでいたドリンクはオレンジジュースだった。
その後も皆で盛り上がって喋っていたのに、ゆいはにこにこして背筋をのばしたままそれを見守っていた。
わたしは高橋の言う通り積極的に森田に話しかけて、ゴルフやってみたいんですよ、と心にも思ってない事を言ったりもした。
森田はよくお酒を飲み、よく喋る人だった。
わたしも負けじとそれに合わせて喋った。
ゆいは森田の話を「うん、うん」と相槌を打って、にこにこしているだけだった。
それなのに、そこにいるだけで、お気に入りだと言った白と黒のワンピースも、セットのお姉さんに緩く巻いてもらった髪も、彼女がそこに座っているだけで絵になってしまう。