【完】さつきあめ
「ゆいちゃんってキャバ嬢っぽくないね」
森田が言った。
「うん。よく言われる。店長にも化粧くらいちゃんとしなさいって言われる」
「確かに!」
「でもあたし、これで自分ではかなり濃い化粧してるつもりなんですけどねー」
団体の1人が「ゆいちゃんってフジテレビのアナウンサーに似てるね」と言った。
そうしたら口々に「アナウンサーっぽい」やら「CAぽい」などと言い出した。
ゆいは否定も肯定もせずに、にこにこと微笑みを絶やす事なく皆の話を聞いていた。
わたしは森田の場内を取るように高橋にプレッシャーをかけられていたので、とりあえず話を合わせていた。
その間もゆいは森田の話を楽しそうに聞きながらにこにこ笑って相槌を打っていた。
数10分後、わたしたちナンバー組は一気に席から抜かれた。
そこで森田は信じられない事を口にした。
「ゆいちゃんに場内いれてくれる?」
「えー?!いいんですかー?!」
ゆいは笑いながらも、心底驚いていた。
こっちもびっくりだ。
目の前にある事実。ゆいは場内をされて、わたしはされなかった。そんなシンプルな事が物凄くショックだった。
「俺はあんまり喋る女が好きじゃないんでね」
「ありがとうございます」
お礼を言って、また微笑む。
結局わたしと凜は場内は取れなかった。
あの席で1番口数の少ないゆいだけが場内を取った。