【完】さつきあめ
「怖いでしょ?」
卓から抜かれた後、ぼそっと凜が話しかけてきた。
「え?」
「ゆいって特に話も広げようとしないのに、ああやって座ってるだけで指名が取れてしまう女の子なの。うちのお店の客層がある程度落ち着いてるってのもあるけど、年配のお客さんには特に人気があるのよね」
「そう…みたいですね…」
「あたしは長い事キャバ嬢やってきてるから、ああいうタイプの女は嫌い。
あんたは…まぁやる気はあるみたいね」
つんけんしながらも、凜はそう言って、指名の席に戻っていく。
光がいつか言ってた。凜は悪い奴ではないよ、と。
悪い奴か良い奴かはまだよくわからない。ただこの人もプライドを持って仕事をしている、夜の女性の1人だった。
この仕事を始めて、色々なタイプのキャバ嬢を見てきた。
それでもゆいのようなタイプのキャバ嬢は見た事がなかった。
これが若めの客層や、盛り上がるのが好きなお客さんだったら話はまた別だろう。
けれどある程度年齢がいっていたり、ある程度の地位があるお客さんなら話はまた別だ。
特に接待などでは余計な事を言わずに、最低限の仕事をして、にこにこと笑いながら席に着いているだけでいい場合もあるわけだ。
それに男の人は本来話を聞いてもらう事を好むらしい。
ゆいはずっとにこにこと微笑みを絶やさずに、話を聞いていた。
それに薄化粧のアナウンサー系の綺麗めの容姿も、年配の男の人には受ける事も何となくわかる。