【完】さつきあめ

「ありがとう…」

「え?」

「お前が1番あいつの側にいてやりたいと思ってるだろ…。
なのに俺の店に残ってくれてありがとう…」

背中を向ける朝日。
今、どんな顔をしているのだろう。
最初は憎んでさえいた男だったのに、光と会わなかった時間で、わたしは朝日との時間を積み重ねすぎたのかもしれない。
見ようともしなかった朝日の良いところが見えてきて、この人の事を心の底から嫌いにはなれなくなっていた。

「じ、じゃあ、あたし着替えたりしなきゃいけないから」

そう言った瞬間、後ろから朝日がわたしを抱きしめた。
いつも強引な朝日が、ふわりと優しく。
ドキドキと鼓動が忙しく動いていくのがわかった。

「宮沢さん…」

「俺はお前が望むなら、もう有明のところに行ってもいいと思ってたんだ…。
でもこうやってお前に優しくされると、俺、お前を離せねぇよ…」

「み、宮沢さん止めてください!」

わたしの体を引き離すと、体を自分の方へ向け、再び見つめた。
今までも何度か感じた事があった。
でも意識してみれば、よく似ていて。
目の前で微笑む朝日は、やっぱり光によく似ていた。

「もうお前を、有明のところには渡さねぇよ…」

「止めてよ…あたしは…」

光とよく似た人を前にして、どうして言えなかったのだろう。
あたしは光が好きだ、と。
昔のわたしだったら、すぐに光の胸に飛び込んでいた。七色グループなんてどうなってもいい。そう思っていたはずだ。
それなのに、どうして私たちは変わってしまう生き物だったのだろう。

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