【完】さつきあめ
水がさらりと手の中から落ちていくように、移ろい変わりやすい世界だという。
毎年何店舗とお店が出されて、その何倍も多く潰れていく。
そんな時代に4店舗も大きい箱でお店をやってきた朝日の苦労は改めてすごかったのだと感じさせる。

小笠原はその日珍しくラストまで居て、お店の前まで送った後、更衣室に行く。

「さくらちゃん、小笠原さんから指名もらってるんだぁ」

「あ、菫さんお疲れさまです。小笠原さん知ってるんですか?」

「もちろん~!
あたしの知ってる頃より少し歳とったなぁ~って感じだけど、相変わらずダンディーで素敵なおじさまよねっ」

「小笠原さん素敵ですよね~」

「あの小笠原さんの指名をもらってるなんて、さくらちゃんもさすがTHREEのナンバー1って感じよね」

「いやいや、あたしの場合運がいいっていうか。
小笠原さんだって仕事始めたばかりにたまたま指名貰えただけで」

「さくらちゃんはこの仕事の経験があんまりないんだっけ?」

「まだ1年と何か月かですね」

「そうなんだ~!あ、てゆーか、朝日来てたよ?!」

「あの…菫さん何か誤解してるみたいですけど、あたしと宮沢さんは何も関係ありませんからね?!」

「えー?あんな堂々とホールで抱き合ってたくせに!」

あれは抱き合っていたというより…一方的に抱きしめられていたというか。

「いや、本当に…」

わたしの言葉はてんて無視で、菫は一方的に話をすすめていく。

「朝日は付き合うなら最高よ~!
お金はあるし、まぁ付き合ってる女には優しいと思うしね。
本気で好きで結婚したいと思ってるならおすすめしないけどね。
ONEのゆりみたいになっちゃう、振られたのに系列のナンバー1やってくって相当辛いと思うけどね」

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