【完】さつきあめ
美優の視線の先には朝日がいた。
普段は私服で偉そうに練り歩いてるのに、今日はスーツをきちんと着ていた。
その表情には明らかな疲弊が見えて、それがまた切なかった。
「あたし~、先にトリガーに行ってるね!」
「うん…」
わたしの肩を叩いて、美優は小走りでお店を出ていく。
そして代わりに朝日がわたしの前にやってきた。
「スーツ案外似合いますね」
「あぁ、かっこいいだろ。惚れ直したか」
それでもまだ冗談は言う気力はあるようで。
「惚れ直しはしませんけど…、宮沢さん顔が疲れてますよ?」
「あぁ、めっちゃ疲れた。色々やる仕事も多くてな。黒服も何人か引き抜かれてるし、俺の仕事じゃないのもたまってるしな」
「そうですか…」
「美優たちと飲みにいくのか?」
「はい」
「少しだけ付き合ってくんね?朝から何も食ってなくて死にそう」
「なーにやってんすか!ちゃんと食べなきゃだめでしょ?!こんな時こそ食べなくちゃ元気出ませんよ」
「そうは言っても全然食欲ないんだよ」
「ただでさえ痩せてるのに…食欲だしてください!」
「あぁ…お前の顔見たら食欲出てきた…」
「もう…用事あるから少しだけですよ」
「出来ればお前のご飯が食いてぇー…目玉焼きとウィンナー」
「それ料理じゃないし?!誰でも出来るし!」
「お前の作ったもんが食いてぇんだよ…」
「冗談やめてください。今日はとりあえずなんか食べに行きましょう」
「今日はって事はいつか作りにきてくれんの?」
いつもの攻撃的な朝日らしくは全然なくて、むしろ捨てられた子犬のように弱弱しかった。
「宮沢さん好きな食べ物は?」
「ハンバーグ!」
「いつか、いつか、ですよ…。1回きりですからね」
「マジで?!ありがとう!さくら!」
そんな口約束にまで、瞳を輝かせたら、そんな日が来る事はないって言いずらくなるじゃない。
わたしと朝日は約束を出来る間柄でもないのに。