【完】さつきあめ

「どこまでもこの子には脈なしよ、涼くん。やっぱりあたしにしといたら?」

「綾乃さんは綺麗すぎて怖い…。俺の手にはおえないわー」

2人の冗談で過ぎていく中、鞄の中の携帯は鳴り続けていた。
着信が何件か、ラインも沢山入っていた。
その全てが謝る内容だった。わたしはやっぱり光に会わなくてはいけないと思った。

トリガーを出て、すぐに美優からラインがあった。

「さくら、さくらの道はさくらが自由に決めて!
さくらが決めた事だったらあたしはどこへでもついていく!
あたしはずっとさくらの味方だからね!」

誰かが孤独な世界だと言った。けれどわたしのいる世界は温かくて
ひとりなんかじゃなくて、自分で思っている以上に誰かに愛されてたりする。

誰かに決められた事じゃなくて、自分で決断して、自分で決めなくてはいけない事がある。
わたしはやっぱり光に会わなくてはいけない。
わたしの思っている事を光に伝えなくてはいけない。

マンション前にタクシーが止まり、降りると、そこにはよく見たシルエットがあった。
誰かは一瞬でわかった。

「光…」

「なんかごめん…。ストーカーみたいだよな」

力なく笑いかける光は、いつもよりずっと疲れているように見えた。

「家、入って。寒かったでしょ?連絡してくれれば良かったのに…」

そこまで言って、光の連絡を無視していたのは自分だと気づいた。

「夕陽、俺の連絡出ないじゃん。
…なんて、お前をずっと待たせていた俺が言える立場じゃねぇけど」

苦笑して笑う光の腕を引き、マンション内へ入っていく。

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