【完】さつきあめ
こうやって、涼は時たま3人でご飯を食べようと提案するのだ。
それはわたしの家であったり、朝日の家であったり、涼の家であったりさまざまだったけど
涼は実際わたしの体の心配をしてくれている。そして悔しいけど、朝日もそうだ。
わたしは光と離れたわけじゃない。
付き合っていないんだから別れたとも言わないし、毎日連絡も取ってる。
11月に入ったらディズニーシーに行く約束もしたし、まるで普通の恋人同士のように毎日を過ごしている。
ただ会わないように仕事を忙しくさせてるのも事実だ。実際に光も新店舗の事がある大切な時期で、わたしと遊んでる時間もないだろう。
ただひとつわかってる事は、わたしが七色にいる限り、光とは恋人同士になれない。
七色にいながら光と付き合っていく事はきっと出来ただろう。けれどわたしはその道を選ばなかった。
トリガーが終わって、24時間やってるスーパーに買い出しに行って、わたしの部屋に着くころ、涼はソファーで横になりすぐに眠ってしまった。
「作るっていったくせにー」
「こいつ眠ってると可愛いな」
ソファーで眠る涼を見て、朝日がぼそりと呟いた。
まるで弟を見るような優しい顔だったから、驚いた。
いつか、昔、この人は光にこんな顔をした事があったのだろうか。
わたしは涼の買ってきた材料をキッチンに並べて、冷蔵庫を開く。
玉ねぎと人参を手に取り、切っていくと、朝日がキッチンに並んで、静かにそれを見つめていた。
「何見てんすか?」
持っていた包丁を突き立てて、朝日を見つめる。
「こうやって女が料理やってるの見るのが好き」
朝日と2人並んで、包丁で野菜を刻む音だけが室内に響く。
時たま子供のような目をするな、と思い始めたのはいつの頃からだっただろうか。
小さな子供が、料理をしているお母さんにまとわりついて、危ないわよ、って注意されている
そんな普通の事をこの人は何ひとつ経験せずに生きてきたんだ。
それを思うと胸が痛む。