何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
私が出窓に置いたプリザーブドフラワーを、目を細めながら眺める悠。綺麗だなあ、というのは正直な感想のようだった。

喜んでくれているようでよかった。ーーしかしそう思った同時に湧き上がる、寂寥感。

ーーねえ。私も、花が好きだよ。悠はそれを知っているでしょ? 私が詩織からプレゼントされた花の栞を使っていることも、あなたがくれた桜の指輪も、肌身離さず身につけていることを。

知っていたでしょ……?

ねえ、思い出してよ。


「悠、ほらこれ。トラ子の写真」


そして私は、次の手段に出た。私たちが親密な関係になるきっかけとなった、トラ子。

まだ公園にトラ子がいた頃の、現在よりも2回りくらいは小さい頃の写真を、私はスマホの画面に映して悠に見せた。

この頃のトラ子と悠が会う時は、必ず私も一緒だったはずだ。だから、記憶を取り戻すのきっかけになりそうに思ったのだ。


「おっ! そういえば、公園にいた頃はこんなに小さかったっけー、懐かしい!」


悠はトラ子の画像を見て嬉しそうに言った。彼のその反応に、私にぱっと希望が湧いた。

ーー悠はトラ子のことはちゃんと覚えている。今よりも小さかった頃のことも、中井家に引き取られる前は公園にいたということも。

いや、もしかするとたった今までは忘れていたけれど、私が見せたトラ子の画像を見たことで、記憶が甦ったのかもしれない。
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