何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
そして人のいい悠は、そんな女同士の争いが起こっていることなんて、まったく気づいていないようだった。

彼にとっては見知らぬ女である私を、平然とした様子で眺めている。


「ーー私帰るね。さようなら、悠」


無理やり笑顔を作ってやっとのことでそう言うと、私は悠の反応も待たずに病室から飛び出た。

病室のドアを後ろ手で閉めると、私はその場に座り込んでしまう。

ーーどうしてなの。どうして、悠は私の事だけを。忘れてしまったの。

ドア越しに、悠と美香ちゃんが談笑する声が微かに聞こえてきた。楽しそうな悠の優しい笑い声。

あんな風に私に笑いかけてくれることは、もうないの?

ーー挫けちゃいけない。悠が記憶を取り戻せば。記憶さえ戻ってくれれば。悠は私の元に帰ってきてくれるはず。

そう思って頑張らなきゃいけないのに、さすがに今のは堪えてしまった。私はその場でうずくまって、少しだけ泣いた。
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