何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
桜が淡々とした口調で、表情を変えずに言う。きっと次に続く言葉は、俺に対する非難ーーそう思った。

ーーだが、しかし。

桜はゆっくりと口角を上げ……微笑んだのだった。優しく俺を包みこような、慈愛に満ちた笑み。

全く想像していなかった桜の表情に、俺は虚をつかれて硬直する。


「きっと理由があるんだね。ーー戻ってきてくれない理由が。それなら私はそれでいい」


桜の瞳が潤む。しかし、その綺麗な顔には、相変わらず微笑みが浮かんでいる。


「私のことを嫌いになったのかな? ……まあ、それでもいいよ。私は悠がそうしたいなら、悠が幸せなら……それで、いい」


そして桜は俺から顔をそむけ、病室のドアの方へと歩いた。ドアノブに手をかけ、退室しようとする。

そして病室から半分出たくらいで、彼女は振り返り、俺の方を見た。


「さよなら」


彼女は泣きながら笑って、短くそう言うと、出ていってしまった。

ーー俺はベットの上で全身を震わせた。

桜の優しさに。底知れない深い愛情に。俺は嗚咽を漏らして、号泣する。

ーーすると。
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