絶対領域
ゆらり。
彼の茶色い眼が、震えた。
「ほ、本当は……っ」
激しい葛藤を押し殺しながら、唇をぐっと噛みしめる。
その続きが紡がれることはなかった。
なぜ何も言わないの?
何が、真実なの?
「この争いに秘密が隠されていようと、そいつが元凶であることは変わりねぇよ」
ギロリ、と凍てついた眼光が私を突き刺す。
オールバックの男の子の憎しみが、痛いくらい伝わってきて、思わず俯いた。
張りつめた沈黙が、宙を舞う。
――パン、パン!
しゃぼん玉を割るように、手を叩く音が2回高らかに鳴った。
「もう、いいであろう」
今までずっと無言だった、赤とオレンジの中間みたいな色に染まる長髪の男の子が、ついに口を開いた。
「記憶喪失なるものになってしまった以上、ここでトーキングしても無意味。それより我らがリーダーを病院に運びたいのだが」
歌を歌うみたいに話す彼は、ここにいる誰よりひどく冷静だった。
確かに、彼の言う通りだ。
周囲を見渡す限り、黒髪の男の子が一番重症みたいだし。
このまま放っておくのは危険だ。